フォーカス、アラインメント、トラッキング、ストレッチにより圧倒的成果を生む / OKRのバイブル「Measure What Matters」を読んだ
より効果的なマネジメントを学ぶため、GoogleにOKRを布教したジョン・ドーア氏によるマネジメントの名著「Measure What Matters」を読んだ。
本記事では、OKRが必要な理由と運用方法について解説し、最後に本書の中で特に参考になった部分を紹介する。
概要
本書では目標管理手法の1つであるOKRが必要な理由から、どのように運用すべきかまでを各社のケーススタディを交えながら解説している。
なぜOKRか
なぜ目標管理が必要で、その中でもOKRを採用すべきなのかをまとめる。
従業員のマネジメントに関して、研究や調査より下記が分かっている。
- 困難かつ具体的な目標は楽な目標を設定した場合に比べパフォーマンスが向上し、アウトプットの水準が高くなる [1]
- 仕事への熱意の強い集団ほど収益性・生産性が約20%高く、離職率が65%低く、顧客からの評価が10%高い [2]
- 熱意の醸成には目標が明確に定義され、明文化されオープンに共有されていること以上に影響力の大きい要因はない[3]。一方で、矛盾する優先課題がある、目標が不透明、無意味、恣意的に変更されると意欲は削がれる[4]
つまり、従業員のパフォーマンスを高めるには、困難かつ具体的な目標を定義し、オープンに共有しておくことが重要。
この形式を取るよくあるマネジメント手法として、MBO(Management by Objectives)がある。
しかし、この方法には次の課題がある [5]
-
目標として数値を掲げることにより目的と手段の逆転を招き、重要な指標を蔑ろにする可能性がある
- 参考: フォードピント事件
-
目標がトップダウンに決定され各組織がそれぞれの目標に固執することにより、局所最適を招く。またトップダウンに決定した目標は熱意を醸成しづらい。
OKRではこれらの課題を解決するため、目標とその達成度を表す主要な結果を分けて定める、水平展開し、詳細はボトムアップに決定する。これにより、具体的でオープンかつ熱意を持ちやすい目標の策定を可能とにしている。
加えて、頻繁な状況確認、継続的パフォーマンス評価、報酬と達成度の切り離しを推奨している。これによりチーム、個人ともに機敏な軌道修正したり、早く失敗して学びを得たりすることができる。またリスクをとって困難な目標を設定しやすくなる。
以下に、一般的な目標管理(MBO)に対し、OKRがどのように困難な目標を設定し、達成へ導くのかをまとめる。
MBO | OKR | |
---|---|---|
フォーカス | What | What, How |
周期 | 年次 | 四半期 or 月次 |
公開範囲 | 非公開、サイロ化 | 公開、透明 |
指示 | トップダウン | ボトムアップ or 水平展開 |
報酬 | 報酬と連動 | 報酬とほぼ分離 |
思考 | リスク回避的 | 積極的、野心的 |
OKRs and MBOs: What’s the difference?
OKRの運用
OKRは次のように運用する。運用方法はre:Workなどでよく知られているので、概要のみまとめる。
策定
- サイクルを設定する。Q OKR(短期)と半年OKR(長期)を推奨する
- 下記を満たす目標(Objective)と主要な結果(Key Results)を設定する
- Objective
- 組織に明確な価値をもたらす目標を設定する。
- 野心的だが、現実的、具体的、客観的で、曖昧さがない。第三者からみて、目標が達成されたか否かが明白であるものを設定する
- Key Results
- SMARTの法則 (https://resily.com/blog/19075 ) を満たす
- Objective
- 全社、部門、部署、個人それぞれ設定し、各位の目標がどのように関連しているか可視化する
- Objective については全社、部門、部署と順に設定する
- Key Resultsについて、半分はメンバーと議論の上設定する。全社のKRであっても先端のコントリビューターと議論することを推奨。イノベーションに繋がる
定期的な確認
- OKRをタイムリーで妥当なものにするため、定期的な確認と進捗報告を徹底する
- 高いパフォーマンスを維持するため、サイクルの終了タイミングに加えて、コントリビュータとマネージャの週一のOKR個人面談と月一の部門会議を開くことを推奨する
- 状況変化に応じて、サイクルの途中でもOKRの見直し、追加、削除は行って構わない。妥当性を失ったあるいは達成不可能となった目標にしがみつくのは非生産的
運用サイクルを図示したものが下記。
学んだこと
特に参考になった部分を紹介する。
- OKRのコンセプトは、困難かつ具体的な目標の策定と熱意の醸成によるパフォーマンスの向上
- これらは研究や調査からパフォーマンスの向上に重要な要素であることが示されており、やらない理由がないことに確信を得られた
- OとKRの分離と定期的な確認により目的と手段の逆転を防ぎ、高いパフォーマンスの維持を可能にする
- コミットOKRとチャレンジOKRを区別する
- 定義
- コミット OKR … すべてのKRの達成が期待される。この達成が難しいなら、他の目標を調整することが必須
- チャレンジ OKR … 野心的な目標で、平均7割のKRの達成が想定される。
- コミットすべきOKRの優先度が下がると、未達の可能性が高まる。他の目標を調整してでもこの目標を達成すべきだが調整されなくなる
- 挑戦OKRをコミットOKRとしてしまうと、達成する方法を見いだせないチームが守りに入る可能性がある。この目標の達成に人員が割かれてしまい、コミットOKRにリソースを避けず未達の可能性が高まる。
- 定義
- バランスと品質管理のため、量のKRと質のKRを組み合わせる
- この間違いをしてしまう人は多そう
- フォードピント事件 は目標とする結果の中に品質が含まれていなかったことにより起きた
- 数値目標を設定する際は対になる品質目標を設定することを検討する
- 例: 機能開発x個を目標に追加したら品質目標としてバグx個以下と設定するなど
- 全てのKRが1.0となってもOが達成されないなら、KRの定義は不十分
- この間違いをしてしまう人は多そう
- 未達成のリスクを減らすため、困難なKRの設定を避ける
- KRはOの達成度を測るものなので
- 報酬とOKRの対応について
- 切り離すべきという話はよく知られている
- とはいえ、Work Rules!によればGoogleは30%以下で評価に含めている
- つまり、達成度をそのままではなく目標の高さを考慮して評価すれば良さそう
- OKRが成功するうえで最も重要な要素は、組織のリーダーがそれを信じ、支持すること
- 真のコミットメントを引き出すにはリーダーが率先して垂範すること。社長がコミットし、各リーダーがコミットし、それでも駄目なら各個人に直接アプローチして初めて全社一丸となって目標に向かうことができる
- ヌナのケーススタディで紹介されている
- 次の動画の3:24 あたり
まとめ
本記事では、OKRが必要な理由と運用方法について解説し、最後に「Measure what matters」を読んで特に参考になったことを紹介した。
中でも目標管理の有効性のファクト、コミットOKRとチャレンジOKRの区別、量のKRと質のKRの組み合わせ、KRの必要不十分パターンはかなり参考になった。
多くの会社でOKRを取り入れていると思われるが適切なOKRの設定は難しい。OKRをうまく運用できているのか気になっている方や、OKRを知らなかったが良さそうだと感じた方は本書も読んでみるのおすすめ。
参考
[1] Toward a theory of task motivation and incentive
[2] Should Managers Focus on Performance or Engagement?
[3] Becoming irresistible: A new model for employee engagement
[4] The Progress Principle: Using Small Wins to Ignite Joy, Engagement, and Creativity at Work